PER(株価収益率)は「株価が利益に対して割高か割安か」を見る基本的な指標です。
しかし、「PERが何倍なら妥当なのか?」という疑問に答えるのが、理論PER(ゴードン成長モデル)です。
1.結論
最初に結論を述べます。次の章以降で詳細を解説します。この結論をなんとなく意識しながら以降の章を読むと理解が進みます。
理論PER(理論上の投資元本の回収期間) = 1 ÷(10年債利回り+期待利回り – 株価成長率)
例:理論PER = 1 ÷(0.04+0.05 – 0.02) = 14.3倍
前提として「PER<理論PER」の場合に割安で良い評価を受けます。
- 「10年債利回り+期待利回り」が大きくなるほど、理論PERは小さくなります。つまり回収まで許容できる期間は短くなります。例えば、金利高騰で10年利回りが高いフェーズでは要求される回収期間は短くなります。
→理論PERと比較するときの、PERの評価が厳しくなります。 - 「株価の成長率」が大きくなるほど、理論PERは大きくなります。つまり回収まで許容できる期間は長くなります。例えば、急成長が期待できるグロース株では株価成長率は大きくなります。要求される回収期間が長くなります。
→理論PERと比較するとき、PERの評価がゆるくなります。
2.理論PERの公式
理論PER = 1 ÷(r – g)
- r:投資家が求めるリターン(期待収益率。要するに期待利回り)
- g:企業の利益成長率(将来のEPSの年成長率。要するに株価の上昇率)
※補足
これは「企業の利益が今後も一定の割合で成長する」という前提のもと、株式の理論的な価値を導くゴードン成長モデルを応用したものです。
通常のPERは投資した元本を株の配当から何年で回収できるかを表します。
r(期待収益率)の意味
rは「投資家が株式に求める収益率」です。これは次の2つで構成されます:
r = 10年国債利回り + リスク・プレミアム
✔ 10年国債利回り
- 国債は最も安全な資産とされ、「ノーリスクで得られる年利」の代表です。
- たとえば、10年国債利回りが4%なら、安全に年4%のリターンが得られます。
✔ リスク・プレミアム
- 株式投資にはリスクがあるため、投資家は国債より高いリターンを求めます。
- 通常、3〜6%程度を上乗せして考えるのが一般的です。
g(利益成長率)の意味
gは、企業が将来どれだけ利益(EPS)を毎年成長させられるかを表します。
- 成長率が高ければ、将来の利益が大きくなり、株主は多くの配当や値上がり益を得られると期待できます。
- 成長率が高いほど「長く保有しても元が取れる」と考えられ、PERも高く正当化されることになります。
✔ 実際のgの見積もり方
- 過去のEPSの成長実績(例:年5%成長)
- アナリスト予測や企業のガイダンス
- 経済や業界の成長見通し
3.理論PERの計算例
条件 | 数値例 |
10年国債利回り | 4.0%(=0.04) |
リスク・プレミアム | 5.0%(=0.05) |
利益成長率(g) | 2.0%(=0.02) |
この場合、r = 0.04 + 0.05 = 0.09
理論PER = 1 ÷(0.09 – 0.02) = 14.3倍
つまり、PERが14倍以下なら「理論的には割安」、
逆にPERが20倍などになっていれば、「成長率の過大評価」または「割高」の可能性があると判断できます。
4.ポイント
項目 | 意味 |
PER | 株価 ÷ EPS(1株あたり利益) |
理論PER | ゴードン成長モデルに基づく「適正なPER」 |
r | 10年国債利回り + 株式リスクプレミアム |
g | 今後のEPSの年間成長率(企業の成長性) |
理論PERの活用法
- PER(株価÷1株利益)が理論PERを上回る場合:成長期待が高すぎる or 割高の可能性
- PER(株価÷1株利益)が理論PERを下回る場合:市場が成長を過小評価している or 割安の可能性
5.最後に
もう一度、本記事トップの「結論」を見てみてください。理解が深まると思います。
理論PERは、「金利」「成長率」「投資家の期待リターン」などを反映した、定量的な割安・割高判断の物差しです。
PER単体で「割高か?」と判断するより、rとgを前提にした理論PERと比較することで、より納得感のある判断ができるようになります。
下記を読むと理解が深まります。
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